野菜における硝酸態窒素
「硝酸態窒素」という言葉を聞いたことはありますか?
野菜が成長するために必要な栄養素としてはリン酸、カリウム、そして窒素の3つが特によく知られています。窒素は成長の過程で野菜に吸収される際、主に硝酸態窒素という硝酸イオンの形をとり、それらが結合した硝酸塩として存在しています。
中でも葉物野菜には吸収した硝酸態窒素が残留しやすい傾向にあると言われています。野菜を摂取することで、残留している硝酸態窒素も共に摂取することになるのです。
日本において硝酸塩自体は、適種・適量であれば食品添加物として認められています。
ですが摂取後に亜硝酸イオンへと変化することで、メトヘモグロビン血症を発症させるなど体内へ良くない影響を与える恐れや、発ガン性物質となるニトロソ化合物を生成する恐れがあるともいわれています。
もちろんまだまだ研究が進められている分野ではありますが、アメリカやヨーロッパ等の国では硝酸態窒素について日本以上に厳しい基準が設けられていることは事実です。
多くの方が安心で安全で健康に良い食を望んでいます。そのひとつの正解が、野菜における硝酸態窒素を低減することであり、もっとも有効なのは栽培方法を工夫することであるのは間違いありません。
なお家庭においても、調理方法を変えることで吸収する硝酸イオンを減らすことが可能です。
例えば、ほうれん草や小松菜やチンゲン菜といった葉物野菜の場合、
・野菜を多めのお湯で茹でる。
→茹でた野菜を流水で冷却する。
→冷却した野菜を絞る。
この3ステップを経ることでおよそ半分の硝酸イオンを低減できると言われています。
他にも
・野菜をしっかりと炒める。
ことで、およそ3割の硝酸イオンの低減が、
・野菜を漬ける。
→漬けた野菜を水で洗う。
ことでも、同じくおよそ3割の硝酸イオンの低減が期待できるようです。
ただし加熱調理などを行うことで、ビタミンCをはじめとする有用な栄養素も減ってしまいます。調理の結果どれ位の栄養素が残存するかは野菜の種類によっても異なるため、気になる方は調べてみるとよいでしょう。
目次
- 1、硝酸態窒素について
- 2、硝酸態窒素とアンモニア態窒素
- 3、硝酸態窒素と硝酸塩
- 4、硝酸態窒素が土壌へ与える影響
- 5、硝酸態窒素と野菜について
- 6、硝酸態窒素と有機栽培
- 7、硝酸態窒素は野菜の収穫量に影響する?
- 8、硝酸態窒素と肥料の種類
- 9、現代の肥料と硝酸態窒素
- 10、農林水産省の資料から見る硝酸態窒素
- 11、日本における硝酸態窒素対策の現状
1.硝酸態窒素について
硝酸態窒素は窒素が化学反応によって酸化したものであり、土の中など自然のあらゆる場所に存在します。農作物を栽培する時に肥料として使われることも多いです。
植物が成長するのに欠かせない栄養素の1つが窒素ですが、空気中に漂っているだけでは栄養素として取り込むことができません。植物は土の中で硝酸態窒素となったものを蓄え、必要な時に使うことで成長していきます。しかし農作物を本格的に栽培しようと考えると、土の中の硝酸態窒素だけでは足りません。そこで過不足ないように栄養を補う方法として、いくつかの肥料を農作物に与えるのが一般的です。
消化管から吸収されると一部は唾液と一緒に排出、その他も腎臓から尿と一緒に外に出ていきます。残留する硝酸態窒素が多すぎると健康被害の恐れが出る可能性があります。消化管で吸収されると微生物によって還元され、アミンやアミドといったタンパク質と反応することでニトロソアミンという発ガン性物質を作ります。
血液に含まれるヘモグロビンと反応すれば、酸素を運べないヘモグロビンへと変化し酸素の供給が妨げられます。酸素不足が深刻化すると、頭痛や呼吸困難などの症状が現れるメトヘモグロビン血症を発症します。胃液のpH値の関係で大人よりも乳幼児の方が硝酸態窒素の還元反応を起こしやすいので、これらの症状に注意が必要です。
ただし最近は安心安全な農作物を生産することに力を注いでいる農家が多く、過剰に肥料を与えることは避けられています。日本で流通している農作物は、基本、定められた基準をクリアしたものとなっています。
また硝酸態窒素は、ほんの少量を摂取する程度であれば心配の必要は無く、大量に摂取しない限りは健康への影響はほぼ無いとされています。
むしろ硝酸態窒素による健康被害を恐れて野菜を食べないという極端な選択肢を取る方が体に悪影響を及ぼします。野菜に多く含まれるビタミン類は人体にとって非常に重要で、いわゆるバランスの良い食生活を送っていれば健康被害のリスクは少ないはずです。
硝酸態窒素を排除することだけに神経質になりすぎず、例えば「普段食べる野菜は、硝酸態窒素の含有量が低めのものをなるべく選ぶようにする」など、無理なくできる範囲で摂取量を減らすようにするのがよいでしょう。
2.硝酸態窒素とアンモニア態窒素
植物の育成には、窒素もまた欠かせない栄養成分です。そこで農業や園芸では窒素肥料を与えて根から吸収させるという方法がメジャーとなり、肥料における窒素成分の表示として、窒素全量/アンモニア性窒素/硝酸性窒素といったような種類があり、それぞれ用途により配合が異なります。
窒素肥料の中でアンモニア態窒素を主に好むのはイネのような酸性土壌に生息している植物です。それ以外の植物は硝酸態窒素を好みます。育てる品種によって、硝酸態窒素とアンモニア態窒素を使い分ければ農作物作りに良い影響を与えます。
アンモニア態窒素(アンモニア性窒素)は、アンモニアおよび水中のアンモニアイオンに含まれる窒素で、アンモニア塩となっているものを指します。
自然界ではタンパク質やアミノ酸などに含まれる有機態窒素や尿素を、微生物が分解して生成します。肥料として土壌に撒くと、硝化菌がアンモニアを亜硝酸に変え、さらに硝酸に変えて植物に吸収されます。その過程で、土壌のPHが下がりますからアルカリ性に傾いている土壌の改良にも使われます。
硝酸態窒素(硝酸性窒素)は、化合物の中で硝酸塩として、水中では硝酸イオンや亜硝酸イオンといったような形で存在しており植物に吸収されやすい形態の窒素です。根から硝酸イオンが吸収され、アミノ酸やタンパク質など植物の体を作る材料として変換されていきます。
これはアンモニア態窒素等の窒素化合物が、酸化されることで生成されるものでもあります。自然界にも存在しますが、雨水に溶けて河川に流入することもあります。摂りすぎることで人体に害を与えることがある物質のため、肥料等に含まれる硝酸態窒素で水が汚染されることも問題だと減肥対策などが求められています。
その硝酸態窒素は、多く与えすぎると植物の育成に使われずに残って苦味・エグみの原因となるアクになります。また前述のように人体には有害となる可能性がある物質なので、肥料を減らして人の口にできるだけ硝酸態窒素が入らないようにしたほうが良いでしょう。
3.硝酸態窒素と硝酸塩
窒素(N)は、空気中の4/5を占めることで特に知られているのではないでしょうか。
色や味やにおいが無い気体で、常温の状態では化学反応を起こしにくくなっている他、水には溶けにくいという特徴もあります。
さらに窒素は空気以外にも、化合物として形を変えつつ存在しています。
例えば水や空気や土、それに植物や生き物など。様々な形に変化しつつ窒素は世界を循環しているのです。
硝酸塩は窒素化合物の一種となります。
化合物とは、化学反応によって2つ以上の元素が結合することで生まれる物質のことであり、窒素化合物は窒素を含む化合物のことをさしています。
硝酸イオン(NO₃⁻)というのは1つの窒素原子と3つの酸素原子で構成されたイオンのことです。
土壌の中には肥料などに由来するアンモニウムイオン(NH₄⁺)が存在します。野菜をはじめとする植物は主に、アンモニウムイオンが土の中で酸化してできる硝酸イオンを吸収します。吸収されることなく土の中へと残った硝酸イオンは、雨が降る等で外へと流れ出したり、窒素(N₂)という形で空気に混じったりすることもあります。
そして植物に吸収されたほうの硝酸イオンなどは、主に光合成に使われ、炭水化物になったり、アミノ酸やタンパク質になったりします。その植物を動物が食べるという形で摂取した場合、動物の体内で分解が行われ、尿素等の形状で窒素が体外に排出されることになります。
この時に排出された物質等が微生物により分解されることでアンモニアが生み出され、アンモニウムイオン等という形で先のサイクルへと戻っていきます。
硝酸イオンを持つ塩(酸由来である陰イオンおよび塩基由来の陽イオンがイオン結合した化合物)のことを硝酸塩と呼びます。
言うなれば硝酸(HNO₃)に含まれる水素イオン(H⁺)が陽イオンと置き換えられたものであり、硝酸カリウム(KNO₃)や硝酸ナトリウム(NaNO₃)などがあります。
窒素の中でも硝酸態窒素は、硝酸イオンをはじめとする酸化窒素の形で存在しているものをさしています。一般的に硝酸イオン(NO₃⁻)に金属が結合したタイプの硝酸塩に含まれる形で存在していると言ってよいでしょう。
4.硝酸態窒素が土壌へ与える影響
硝酸態窒素は植物の生育に非常に重要な窒素を含んだ栄養素であるため、野菜をはじめとする植物の発育には欠かせないものとなっています。そのため肥料の中に含まれていることが多いのですが、過剰に与えると必要以上に野菜に吸収されそのまま残留する形となります。残留した硝酸態窒素は、その野菜を摂取する人体にも少なくない影響を及ぼします。
人間が硝酸態窒素を過剰に摂取をすると血中のヘモグロビンを変化させ、メトヘモグロビン血症等を引き起こす要因になると言われています。特に乳幼児の場合にはその影響を受けやすく、微量であっても様々な健康被害を発生させるリスクがあるため、厳重に管理をしなければならないでしょう。
注意しなければならないのは、野菜への残留分だけではありません。植物に吸収されない分は、土壌の中に残留することになります。ですが、実際には硝酸態窒素は土壌に吸着しにくく、水などで簡単に地下水や河川に溶け出してしまうという性質があります。
池や沼の水などの含有量が増えた場合にはその自然体系を破壊し、水質を汚染させる原因となることもあるでしょう。また間接的に水源から人体に入る可能性があります。特に地下水や河川水などは最終的には飲料水に利用されると言う恐れもあり、これらをもとに乳幼児が摂取するミルクの調整水などに使用される場合には非常に危険な状態となることも多いので注意が必要です。
他にも最終的には様々な面でトラブルを発生させることになるため厳重に管理をしなければなりません。
硝酸態窒素は野菜の生育に必要な分量を十分に考慮し、極力土壌の中に残らないよう肥料のやり方に注意をしながら、安全に農作物を育てることが非常に重要なポイントとなっています。
5.硝酸態窒素と野菜について
野菜というのは、ビタミンや食物繊維といった栄養を自然な形で摂ることができる食物の1種です。
全てに同じ栄養素が含まれているわけではなく、野菜の種類により含まれる栄養が変わります。
例えばレタスなら、ビタミンAやカリウム等が含まれています。
小松菜なら、ビタミン類に加え鉄分やカルシウムが含まれています。
そのため1種類の食材だけを多く食べるよりも、野菜をはじめとする様々な種類の食材を偏ることなくバランスよく摂取したほうが、栄養の摂り方として理想だと言えるでしょう。
また野菜の種類が同じであったとしても、育成環境や収穫後の保管方法や調理方法によって、摂取できる栄養素の量が異なります。
育成環境により含まれる成分が変わる理由としては、育成時の環境が変わることで、植物の成長過程において吸収される成分が変化する可能性がある、ということがあげられるのではないでしょうか。
成長過程の状況で蓄積量が変化するものの1つに、硝酸態窒素があります。
窒素は植物の成長に欠かすことができない存在であり、葉や茎を太く丈夫に育てるための必須栄養素であり、アミノ酸やたんぱく質を構成する要素となっています。
そして窒素が植物に吸収される際、硝酸態窒素という形になっているのが一般的です。
吸収された硝酸態窒素は、全てがそのままの形で野菜の中に残るわけではありません。
酵素のはたらきによって亜硝酸やアンモニアに還元されたり、アミノ酸へと変換されたりといったようにさらに様々な形へと姿を変えていくものもあります。
余った硝酸態窒素は基本そのまま野菜の中に蓄積され続けることになりますが、洗う・茹でるなどの調理方法によって残留量がさらに変化します。
6.硝酸態窒素と有機栽培
有機栽培では、農業における自然循環の維持や増進を図ることを目指しています。
農薬や化学肥料の使用を極力避け、有機質肥料を使用して作物を生育・収穫するのが基本であり、他にも土の特質に由来する農地本来の力を発揮できるようにしたり、環境への負担をできる限り減らした方法での栽培を行ったりする形です。
もちろんこれらを心掛けたからと言って「有機」と名乗れるわけではありません。
日本においては「有機栽培」「オーガニック」「有機」と表示するためには、農林水産省が認めた登録認証機関にて認証を受ける必要があります。
そして「有機JASマーク」は認証を受けた事業者だけが使える表示であり、認証を受けていない事業者が使用することはできません。そのため、店頭に並ぶ商品にこのマークがついているかどうかというのが、商品選びの1つの基準になるのではないでしょうか。
有機質肥料は、硝酸態窒素等の形で野菜をはじめとする植物に吸収されます。
吸収されたあとは植物の中で使われますが、あまりにも吸収量が多すぎる場合は過剰分が残存してしまうのです。
硝酸態窒素自体は、一概に有害とは言い切れません。水中や土の中、植物や食品にも存在するもので、私たちにとって身近な存在です。また、作物を含む植物は成長するために硝酸態窒素が必要不可欠です。つまり、硝酸態窒素が不足した状態では生育することができません。このことからも、硝酸態窒素はあらゆる植物にとってとても重要な栄養分であると言えます。
とは言え、未完熟なたい肥や過剰量の有機質肥料の使用等で土の中の硝酸態窒素の量が増え過ぎると、その結果、作物に多く取り込まれることになります。適切量であれば問題なくとも、過剰な量の硝酸態窒素を吸収した場合に関しては様々な研究が行われています。
また農林水産省のサイトには「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」が掲載されていることなどから考えても、日本では野菜における硝酸態窒素の低減が推奨されていると言ってもよいのではないでしょうか。
7.硝酸態窒素は野菜の収穫量に影響する?
野菜をはじめとする植物が成長する上では様々な成分が使われます。その1つが硝酸態窒素です。
植物の成長に必要な栄養素としては窒素・リン酸・カリウムが必要ですが、窒素はその中でも主に茎や葉の成長を促すために必要な栄養素です。硝酸態窒素という形で取り入れられた窒素は、野菜の細胞を構成するたんぱく質や、光合成に欠かせない葉緑素といった重要なものを構成する要素として使われます。
ですがもし窒素が足りなければ、植物全体が成長するのに必要な栄養素が不足してしまうということになりますから、うまく育たなくなってしまうのです。例えば草丈が伸びづらくなったり、葉が黄色くなったりといった症状がみられる場合もあります。
硝酸態窒素は上手に活用することによって、野菜の収穫量を増やす効果が期待できると言えるでしょう。
自然に含まれている成分だけでは成長に必要な栄養が不足してしまう可能性があることから、野菜を育てる上では必要に応じて成分を補っていかなければなりません。野菜は主に根から必要な栄養素を吸収しますから、肥料を用いて土に栄養を補給する形で植物の栄養吸収に繋げていくのが基本です。
この時、肥料はただ与えればよいというものではありません。肥料には様々な種類がありますから、育成状況や目指す方向性に応じて、適切な肥料を選ぶことが大切です。
また元々痩せており栄養が少ない土地だったとしても、肥料を利用し栄養素をうまく与えることができれば、葉を青々を茂らせた葉物野菜を育てられる可能性が生まれます。
とはいえ硝酸態窒素に限らず、「特定の栄養素が過剰になっている状態」というのは、野菜にとって決して良い状態というわけではありません。
通常、光合成によるアミノ酸への分解等ができなかった過剰分に関しては、そのまま硝酸態窒素という形で野菜の中に蓄えられていきます。その状態の野菜を人間が食べることで、今度は人体に硝酸態窒素が取り込まれることになります。これにより、過剰分の硝酸態窒素は結果的に人体に対しての影響を及ぼす可能性があるのです。
硝酸態窒素自体は植物の成長を促す効果が期待できると言うことから、収穫量を増やそうとする働きも十分期待できます。そのため、なるべくしっかりと葉を作ったり植物を成長させたいという目的から、硝酸態窒素を利用している場面は決して少なくありません。
しかし、収穫量はただ増やすだけでなく、他の影響も考慮する必要があるので、現在ではその利用に関しては慎重にすべきという意見が多く聞かれます。何事も適量が望ましいのです。
8.硝酸態窒素と肥料の種類
窒素は植物の三大栄養素の一つであり、野菜をはじめとする植物の生育に欠かせない成分の1つです。
もしも窒素が不足してしまうと、場合によっては様々なトラブルを招いてしまう可能性があります。
そのため野菜を育てるにあたり、窒素を含んだ肥料は非常に多く利用されています。配合割合も製品にとって様々であり、用途に合わせて選ばれています。
ですが窒素が多ければ多いほど良いというわけではありません。
植物が窒素を過剰に取り込むと、生育にとって逆効果となってしまうことも。
肥料を利用して窒素を与える場合、適量になるよう調整する必要があるのです。
窒素は空気に含まれる気体のおよそ8割を占めていますが、植物は気体(ガス体)の状態の物質をそのまま吸収することが出来ないという性質を持っています。
よって窒素成分を含むタンパク質等を利用した有機肥料、窒素ガスを化学反応させる等で作る化学肥料のように、主に個体等という形で与える必要があります。
ここからは肥料の種類を見ていきましょう。
尿素態窒素で構成されているのが「尿素」です。直接、根からは吸収することが出来ないので一般的には液肥として葉面散布をして使用します。
硝酸隊窒素とアンモニア態窒素を同量ずつ結合させた「硝酸アンモニウム」は、施しても土地のpHが変動しにくいことが特徴です。速効性もありますが、葉にかかるのと葉焼けを起こす可能性があるので注意が必要です。
アンモニア態窒素が主な成分である「塩化アンモニウム」は、速効性であることが特徴です。副成分となる塩素も栄養分となり、繊維作物の育成に効果的だといわれています。
シアナミド態窒素で構成されるのが「石灰窒素」。この成分は有毒なので、シアナミド態から尿素、アンモニアから硝酸の順番で変換されるのを待つ緩効性の性質を持つ肥料です。施す際には直接吸い込まないように十分に気をつけて防護することが大切です。
アンモニア態窒素のみを含む「硫酸アンモニウム」は、水に溶けやすく速効性が高い特徴を持っており一度施せば効果は約1ヶ月ほど持続する上に、土壌のpHを下げる効果が期待できます。
9.現代の肥料と硝酸態窒素
日本は古くから農業が盛んな国で、その歴史は2,000年以上に及びます。
当初は狩猟で生活をしていた民族でしたが、徐々に農耕が広まり、また大陸から稲作が伝わったことで食生活も大きく変化しました。農業に欠かせないものが肥料であり、古代日本では主に堆肥を使用していました。この堆肥とは枯草や泥のほか、動物の排泄物を混ぜて作るもので、微生物の力を借りる有機農法の一種です。
平安・鎌倉・江戸時代まで長き年月をかけて農業を守ってきた肥料でしたが、現代日本ではほとんどの地域で堆肥は使われなくなりました。1番の理由はやはり“臭い”でしょう。
堆肥は非常に強烈な臭気を放ちます。住宅地が広がるようになった現代日本では好まれなくなったというわけです。
では現代ではどのような肥料を用いているのでしょうか?
主に使用されているのは、効果に確実性が高い傾向にある化学肥料です。それまで多く使われていた堆肥とは違い、微生物の力を借りるのではなく、土壌を酸性からアルカリ性に変えて作物が育ちやすい環境を作り出します。基本は無臭であり、人口が集中している地域の農場であっても近隣に臭いによる影響を与える心配もありません。
現代の肥料の大半が化学肥料となり、一般家庭の菜園向けとしても利用されているほどです。大規模な農場であれば粉末状の肥料を撒いていくケースが多く、家庭向けのものは使いやすさを重視し液体で販売されているケースも少なくありません。これは自身で希釈をする必要がなく、アンプルに入っているので本数で作物に与える分量を把握できるというメリットもあります。
一見メリットばかりに見える化学肥料ですが、もちろんデメリットも存在します。使い過ぎれば肥料やけをはじめとする逆効果を生む可能性も否定できません。
また肥料には硝酸態窒素が含まれています。これ自体は野菜の成長に必要な栄養素でもあるのですが、根から吸収したにも関わらずその過程で使いきれない量の硝酸態窒素がある場合、そのまま溜め込む性質を持っています。この状態の野菜を人間が摂取すると、過剰に蓄積された硝酸態窒素が体内に取り込まれ、少なからず影響を与えてしまうのです。
そのため現在では、野菜に取り込まれる硝酸態窒素を低減するために、様々な研究や対策が行われています。
10.農林水産省の資料から見る硝酸態窒素
硝酸態窒素は人間の体に蓄積すると血中のヘモグロビンを凝固させ、血流を悪くするとともに様々な健康被害をもたらす可能性があるとわかっていることからも、その摂取量を抑えることの意義がお分かりいただけることでしょう。
しかし、農作物の成長促進や家畜の成長促進には適量ならば非常に役立つものでもあり、完全に断ち切るのは難しいでしょう。
そのようなこれまでの状況は、農林水産省が発行する資料からも見ることができます。
農林水産省は2006年、硝酸イオン(硝酸塩)を摂取する可能性のある野菜について「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」を公表しています。このマニュアルは、研究実績がある様々な技術等を用いて、硝酸イオンの含有量が少ない野菜を生産するための技術を解説しているものであり、葉物野菜をはじめ日本で食べられている野菜を対象にしています。
また土壌由来の有害化学物質のリスク管理措置の検証に関するメニューを消費・安全対策交付金に設けています。これにより、都道府県等の硝酸イオン低減への取り組みを支援しています。
2007年には乾牧草の輸入において、硝酸態窒素の含有量がおよそ0.1%以下であるものが望ましいとの指導通知が出されています。
そして厚生労働省でも、硝酸態窒素に関する施策が行われています。
清涼飲料水の製造基準として1959年には硝酸態窒素と亜硝酸態窒素の和が明示されています。例えばミネラルウォーター類の場合は1リットルあたり10㎎でした。2011年には水質基準としても同じ数値が示されました。
環境省においては、1971年に環境基準として硝酸態窒素と亜硝酸態窒素の和は1リットルあたり10㎎という基準が決められています。
また環境汚染を減らす目的で、2001年には「硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素に係る水質汚染対策マニュアル」や「硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素に係る土壌管理指針」 が策定されました。
11.日本における硝酸態窒素対策の現状
日本国内では、硝酸態窒素の低減を目指し様々な対策が行われています。ですがその取り扱いは非常に難しいものであり、十分な成果をもたらすものとはなっていないのが現状です。
硝酸態窒素は野菜を効果的に生産するために重要な栄養素とされ、従来は肥料の中に多く含まれておりこれを積極的に与えることでより効果的に野菜を生育させ利益を上げることができると考えられてきました。そのため積極的に利用し効率よく野菜を生産するための研究も広く行われていたのです。ですがその後の研究で、植物は土壌から吸収した硝酸態窒素を完全に使い切ることができなかった場合はそれを内部に蓄積し、これを食べた人間に健康被害を与える危険性があることがわかっています。
現在、農林水産省では栽培に使用する肥料の中の硝酸態窒素の含有量や与える量をガイドラインで規制しています。2006年には「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」を発行。様々な成分の中に含まれる量を指定することで、人体に対する影響を極力減らし安全に食べることができるものを生産するように指導しています。とはいえ実際には野菜が必要とする栄養素であることや、生産性に大きく影響する問題でもあるため必ずしもこのガイドラインが遵守されていないという危険性もあることなどが理由で、全ての生産物において実現できているわけではないでしょう。
近年では、硝酸態窒素が土壌に含まれている量を積極的に調査したり、また河川に流出する量などを測定することでその安全性の状況を確認したりが頻繁に行われており、合わせて様々な影響に関する詳細な説明や指導を積極的に行うことでその対策としているが実態です。
さらに一般の人にもその危険性を十分に認識してもらうような啓蒙活動が行われており、そのために必要な分析も高い技術を持って進められていると言えるでしょう。最近では許容量の設定も細かく行われており、また食品会社でも自主的に測定を行い規制を行うといった対策が講じられています。
<参考>食品安全に関するリスクプロファイルシート(検討会用) :農林水産省